フリーランス主婦の孤独LIFE

映像翻訳者になって早10年。仕事、育児、お金、孤独な引きこもり生活のいろいろ。

映像翻訳のために磨きたい再現力と想像力

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大学時代に、「文芸翻訳」という授業を取っていました。

 私が楽しみにしていた数少ない(!?)講義のうちの1つです。

(今思えば、もっとまじめに勉強しておけばよかった。。。)

 

原語から離れて、再現または想像する

 

講師は、書籍や演劇の翻訳を手掛けていて舞台演出家でもある女性。

演出家だけあってホントに表現力豊かで、快活でステキな先生でした。

 

授業では、毎回現代小説を少しずつ翻訳していくのですが、登場人物の動きや表情の表現が出てくると、先生がマネをするのですよね。

「こういう状態を日本語でどういうかな?」と。

机を並べて寝そべってみたりすることもありました。

机の上に寝そべっちゃう先生なんて、後にも先にも彼女だけでしたね(笑)。

 

特に出版翻訳の場合は画がないわけですから、自分で再現してみてそれをどう日本語で表すかが重要になってきます。

 

映像翻訳はすでに画があるので、その分簡単ではあります。

ただ辞書にある訳語でピンとこない時は、私自身も役者と同じ動きをマネたり、

「同じシチュエーションで、私だったらどう言うかな?」と、

一度原語から離れて場面を想像してみたりします。

 

「ありがとう」だけじゃない"Thank you"

誰もがご存じの"Thank you"なら、

「ありがとう」「どうも」「助かった」「恩に着る」など

感謝の意を示す訳語を当てるのが定番でしょう。

 

しかし映像翻訳では、"Thank you"ひとつ取っても

「ありがとう」でいいのかどうか立ち止まって考えることが大事です。

 

例えば、こんなシーンを考えてみてください。

 

話者は犯罪組織のボス。

彼の部下が客人を部屋に通したあと、ドアの付近に立っている。

ボスが"Thank you"と言うと、部下は部屋を出てドアを閉める。

 

翻訳の初心者なら、大半の人が「ありがとう」という訳語を当てるでしょう。

それでも間違いではないのですが、自分がボスの立場だったら何と言うか想像してみてください。

この"Thank you"は

「君の仕事は終わった。下がっていいぞ」

という意味合いが強いのです。

 

そう考えると「ありがとう」よりは「ご苦労」などの訳語のほうが、

このシーンにふさわしいと言えるでしょう。

 

スピーチやアナウンスのあとに言う"Thank you"も同様。

「これで話は終わりです」という意味合いが強いのです。

ですから、多くの場合「ありがとう」よりは「以上です」などの訳語を当てたほうが自然と言えるでしょう。

 

呼びかけの単語が少ない日本語

映像翻訳で悩ましいものの1つが、

sir, ma'am, brother, darling, my dear, my love...

などの相手への呼びかけ。

 

 例えば、こんなシーンを考えてみてください。

 

電車が終着駅にたどり着いたにもかかわらず、

1人の女性が居眠りしたまま降りずにいる。

駅員が彼女に"Ma'am, you have to get off the train."と声をかける。

 

ma'amは、若い女性向けには「お嬢さん」、既婚者向けには「奥さん」と訳すことができますが、

駅員が乗客に向かって「お嬢さん」はあり得ないし、既婚者かどうかわからない人に「奥さん」も失礼ですよね。

 

この場合、自分が駅員だったらと想像してみるとやはり

お客さん、終点ですよ」

と言うのが自然でしょう。

 

この呼びかけに関しては、どうしても当てはまるものがない時は、

「あの…」とかでごまかしてしまうこともよくあります(笑)。

 

まとめ

 

自然な日本語を生み出すコツは、1つ1つのシーンを日常のやり取りに当てはめて想像してみること。

人々のやり取りを観察したり、ドラマ・小説などで生きた日本語を吸収することが、翻訳にもプラスになるのではないかなと思っています。